持久的スポーツの選手に知って欲しい筋トレのよもやま話し




お題箱ではありませんが、直接的な知り合いからブログのネタをいただいたのでしたためております。

 

今回は愛三工業レーシングチームに所属する大前選手のブログを拝見し、そこで呈されている疑問についてお話ししてみたいと思います。

 

文中で「ロードバイクトレーニングに筋トレを組み合わせることをおすすめします」と大前選手が発言されているように、私もストレングストレーニングを組み合わせた方がパフォーマンスの向上に繋がると考えております。

 

今回のポストが持久的スポーツの選手が抱きがちな筋トレに対する誤った認識を払拭する機会になれば幸いです。

 

筋トレは体重増加を招くのか?

 

大前選手のブログではLosnegard(2010)の研究を基に、筋トレを行うと持久的パフォーマンスの向上をもたらしたけれども目立った体重の増加は認められなかったと記しております。

 

これは下記に記すPaton(2005)の先行研究と同じ結果です。体重の増加に有意差は無く、1㎞と4㎞のタイムトライアルやパワーといった持久的パフォーマンスにおいては有意に向上しております。

 

意外に思われるかもしれませんが、現時点において筋トレが体重を増やすという科学的根拠はほぼ見受けられません。

 

体重が増えてしまったとしたら単なる食べ過ぎ。もしくは筋トレに時間を割くことで競技練習が減り、相対的に運動量が減ることによるものと考えられます。

 

 

そもそも、筋トレを行ったとしても筋量はそう簡単に増えません。持久的スポーツの選手が筋トレに充てられる量や強度の問題もありますが、持久的トレーニングは筋トレの効果を阻害します。

 

この説は1980年頃から言われており、Wilson(2012)のメタ分析によれば筋肥大や筋力向上の効果を減らすと報告されております。筋トレを行うと筋量が増えて体が重くなってしまうと恐れる必要は余りありません。

 

 

仮説①: 筋トレで競技に必要な各部位の筋肉量を最適化するについて

 

前掲のLosnegardに研究だとDEXAを用いて筋量の変化を測定しております。各部位によっては変化が見られたが、全身では有意差が無かったと主張しております。

 

ここで注意しなければならないのはDEXAにおける測定誤差です。グループ間だと1~2%程度。個人だとその差は大きくなり4~5%程度。研究によっては8~10%程度の誤差が生じる測定方法です。

 

Losnegardの研究に示されている1~2%の差では誤差の範囲です。上腕三頭筋の横断面積に関しては有意差があると言えるかなといった程度です。

 

従って、後述するように筋トレを行うことで何らかの良い影響を与えたかもしれませんが、「筋トレで競技に必要な各部位の筋肉量を最適化する」ことが出来たとまでこの研究からでは言えないでしょう。

 

同じ測定方法を利用しているのだから絶対値に誤差はあれど変化はしているはずと考える方がいらっしゃるかもしれません。

 

誤差が常に一定という仮定からそう考えるのかもしれませんが、性別や年齢、体重、特に体水分量によって推定に使用する除脂肪体重の密度は変わります。1~2%程度の差では誤差の範囲と言って差し支えないと思われます。

 

 

仮説②: 神経系のトレーニングにより筋量と関係なく筋力が向上するについて

 

筋力の向上=競技力の向上という直線的な関係ではありませんが、この仮説に関してはその通りだろうと思われます。(詳しくは過去のブログ①をご覧ください)

 

仮説について話しをする前に筋肉の力発揮についてお話しいたします。まず筋肉の発揮できる力は横断面積と正比例します。

 

例えば10㎠だったものが15㎠になれば1.5倍の力を出せますし、20㎠になれば2倍の力を出せます。

 

それとは別に1㎠当たりの力発揮能力があります。これが筋力あるいは筋出力と呼ばれるものです。

 

筋出力に関しては、筋の運動単位の増加や大きな運動単位の動員、発火頻度といった神経系の作用により向上します。

 

筋トレを導入して最初の数週間に起きる挙上重量の増大は、これらの改善によるものが大きいです。

 

他にも、余り取り沙汰されませんが筋トレには抑制反射を無効にする効果もあります。

 

抑制反射を簡単に説明すると、人間の体はとても良く出来ていて危険を察知するとブレーキを掛けるようになっております。

 

例えばゴルジ腱器官は筋が活動しその腱が引き延ばされると興奮し、筋の張力が高まると脊髄の抑制型介入ニューロンと結合し運動を抑制します。

 

言わば強い力で壊れてしまわないように自動的にアクセルを抜くように調整してくれる器官です。高負荷のレジスタンストレーニングを行うことでこの抑制反射を徐々に無効化できると言われています。

 

以上2つの要因により今までは70%の力しか発揮できなかったものがトレーニングによって80%になったり90%になったりする訳です。

 

最大筋力が向上すれば、今までの負荷が相対的に低くなりパフォーマンスの向上に繋がると考えることができます。

 

他にも怪我の受傷率を下げたり、柔軟性の向上といった様々な効果があります。適切に行いさえすれば筋トレはパフォーマンスに良い影響を与えると言って良いでしょう。(詳しくは過去ブログ②をご覧ください)

 

筋トレ導入における注意点

 

筋トレを導入する際の注意点としては筋肉痛、もしくは筋トレを行うことによる体の怠さが競技練習に支障を来たす点です。

 

しっかり追い込めば、次の日は閾値トレーニングでも精一杯でとても高強度のトレーニングなんて出来ないものです。これは避けられないのである程度我慢するほかありません。

 

結果として競技練習の量や質が落ちパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性は否定できません。導入して最初の1~2ヶ月は下がるとさえ思っています。

 

安心して欲しいのはこの筋トレによる筋肉痛はトレーニングを繰り返すことで軽減されます。それをRepeated Bout Effectと言います。

 

従って、レースが続くシーズン中に新しく筋トレを導入するのは余りお勧めできず、Repeated Bout Effectの効果を十分獲得できるだけの時間的余裕のあるオフの時期にスタートし、負荷に十分体を慣らしてからシーズン中は維持に努めるのが適切ではないかと考えております。

 

残念ながら今シーズンはレースそのものが無いので、筋トレを行うには良いタイミングではないかと思われます。繰り返しになりますが、筋トレは適切に行いさえすればパフォーマンスの向上に寄与すると考えられます。来シーズンのために今から頑張るという方は是非ご検討ください。

 

 

参考文献

 

Thomas Losnegard

The effect of heavy strength training on muscle mass and physical performance in elite cross country skiers

Scand J Med Sci Sports.2011 Jun;21(3):389-401. doi: 10.1111/j.1600-0838.2009.01074.x.

  

Carl D Paton

Combining Explosive and High-Resistance Training Improves Performance in Competitive Cyclists

J Strength Cond Res.2005 Nov;19(4):826-30.

 

Jacob M Wilson

Concurrent training: A meta-analysis examining interference of aerobic and resistance exercises

J Strength Cond Res.2012 Aug;26(8):2293-307.

 

J L Clasey

Validity of methods of body composition assessment in young and older men and women

J Appl Physiol(1985).1999 May;86(5):1728-38. doi: 10.1152/jappl.1999.86.5.1728.