身体における非対称性が競技に与える影響~主に左右差について~




身体における非対称性に関心のある方は少なくないと思われます。左右差があればパフォーマンスが落ちる。もしくは障害のリスクが増すと直感的に感じられます。

 

実際にパワーメーターで左右のパワーバランスを測定できますし、それを改善するには云々といった話しもよく見聞きします。

 

ここで気になるのは、普段見聞きする話しでは左右差を無くすにはどうしたら良いのかといった方法論についてであり、左右差が具体的にどれくらい影響を及ぼすのか。或いは影響しないのかといった事柄に言及したものが自転車界隈では存在いたしません。(S&Cだと結構ある)

 

本日は過去の研究を紹介しながら身体の非対称性がどう影響するのかについて考えてみたいと思います。

 

非対称性が競技力に及ぼす影響について

Hartらはオーストラリアンフットボール(ラグビーに似ていますが異なる種目)の選手に対し、キックが正確なグループと不正確なグループに分け左右の下肢筋力差、除脂肪量・体脂肪量について下記のような報告をしております。

 

正確なグループに対し不正確なグループだと支持脚の絶対的な筋力が8%ほど低く、蹴り脚・両側の強さ・支持脚の強さにおいても相対的な筋力が7%、12%、14%低かった。

 

 

そして、下肢筋群の相対的な強化と改善された対称性はキック精度と関連していると主張しております。

 

上記は競技特異的な内容についてです。より一般的な運動であるジャンプ動作についてはBellらが次のような報告をしております。

 

学生選手に対する研究。下肢における除脂肪体重の非対称性がジャンプ動作における力とジャンプ高にどう影響するのか確認した。結果的に10%以上の非対称性を持つとジャンプ高が減る傾向を示した。

 

 

この研究だと10%以上の非対称性を示す選手の数が少ないです。従って、イレギュラーな数値を出す選手によって結果が歪められている可能性はありますが、ある程度の差があるとジャンプ動作に悪影響を及ぼすと示唆しています。

 

それに対して、Lockieらは次のような研究を報告しております。

 

30名のチームスポーツ選手が被験者。片足ジャンプを前方・側方・垂直方向に向かって行い左右差を測定した。

 

そして、20mスプリント、505やTテスト(どちらもアジリティテストの一種)を行い検証した。結果として、左右のジャンプパフォーマンスとスプリントやアジリティテストは有意な相関関係を示さなかった。

 

これらの研究を見ると下肢筋力の非対称性が大きくなると競技特異的な運動やジャンプ力の低下をもたらす一方で、ジャンプパフォーマンスにおける非対称性は移動速度に影響を及ぼすことは認められなかったという結果でした。

 

私自身も調べて驚きましたが、条件や種目によって結果が異なり、現時点では身体の非対称性が競技力に与える影響について統一的見解を出すことは難しい模様です。

 

非対称性が傷害発生にもたらす影響について

 

それでは次に障害のリスクについて確認してみたいと思います。Sugiuraらは次のような研究を報告しております。

 

42名の短距離インカレ選手が被験者。12名が途中で除外。非受傷グループでは膝関節・股関節の伸展筋群に左右差が見られなかった。それに対して受傷グループでは左右差が見られた。

 

それに対してGrayらは次のような研究を報告しております。

 

25名のクリケット、ファストボウラー選手が被験者。そのうち9名が腰痛無し、16名が腰痛有り。その被験者の外腹斜筋と腹横筋の筋厚を測定した。

 

腰痛無しのグループでは非利き側の筋厚が厚く非対称であった。それに対して、腰痛有りのグループは左右の筋厚が同等で対称的であった。

 

どちらも観察研究です。従って、本当に左右差がこの結果を招いたのかといった因果関係は分かりませんが、上記2つの研究を見る限りでは障害のリスクにおいても異なる結果が報告されております。 

 

個人的な見解を申し上げると、後者の研究は注意が必要と考えております。ゴルフや野球といったある側でのみ動く非対称的なスポーツの場合、加わる負荷が左右で異なり片側の筋量や筋力が高くなるのは容易に想像できます。従って、左右対称ということはその競技を行うのに適した体を作れていなかったことを意味し、負荷に耐えられなかったのではないかと解釈しております。

   

まとめと提言

・左右差がある程度(10%くらい?)の閾値を超えると競技力を損なう可能性がある。

・ただし、運動の種類によっては影響しない。

・障害においてもある程度の閾値を超えるとリスクが増す可能性がある。

・ただし、競技特性によっては非対称の方が有利な場合も有り得る。

 

自分でまとめておいて言うのも何ですが、随分と曖昧な表現になってしまうなと感じております。

 

ただ、現状では左右差についてどうすれば良いのか分かっていないという事実を認める必要があります。

 

その上でどうするべきかを各選手や指導者の方が考えるべきでしょう。個人的な見解を申し上げると余り気にしなくて良いだろうと思います。

 

根拠としては、10%程度といったある程度の差が無ければ競技力に影響は無さそうですし、少なくとも1%や2%といった差は無視して大丈夫のようです。

   

そして、左右差を是正する場合はそれに伴うコストを考えなければなりません。具体的には弱い方を鍛えるのに掛かる労力。そして、左右均等になったとしても、そのパワーを競技のテクニックにどう組み込むかを習得する過程が必要になります。

 

パワーが上がったらすぐに競技力が向上するという訳ではありません。むしろ、パワーのバランスが変化したことで一時的に競技力が落ちる可能性もあります。それらを総合的に判断して取り組む必要があります。

 

両側同様に使う自転車やランのような競技の場合、左右差が存在すると競技力への悪影響、障害のリスクが考えられる。従って、左右差を助長するようなことは避けるべきである。

 

しかし、積極的に左右差を無くす行動は労力と想定される利益を考えると余り効率的とは思えない。従って、競技練習では左右差を気にせず行い、補助的なトレーニング(筋トレ等)は左右差を助長しないように均等に使うようなものを選択するといった辺りが現実的な落し所ではないかと考えております。

 

無条件で左右差を無くせと主張したり、逆に全く無視して良いという問題では無さそうです。今回のポストがトレーニングを組み立てる際の一助になれば幸いです。

 

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参考文献

Hart N H

Leg strength and lean mass symmetry influences kicking performance in Australian football.

J Sports Sci Med.2014 Jan 20;13(1):157-65. eCollection 2014 Jan.

  

Bell D R

Lean Mass Asymmetry Influences Force and Power Asymmetry During Jumping in Collegiate Athletes.

J Strength Cond Res.2014 Apr;28(4):884-91.

  

Lockie R G

Relationship Between Unilateral Jumping Ability and Asymmetry on Multidirectional Speed in Team-Sport Athletes.

J Strength Cond Res.2014 Dec;28(12):3557-66.

  

Sugiura Y

Strength Deficits Identified With Concentric Action of the Hip Extensors and Eccentric Action of the Hamstrings Predispose to Hamstring Injury in Elite Sprinters.

J Orthop Sport Phys Ther 2014.38: 457–464

  

Gray J

Symmetry, not asymmetry, of abdominal muscle morphology is associated with low back pain in cricket fast bowlers.

J Sci Med Sports.2016 Mar;19(3):222-226.